Crescent Moon
笑っているその顔には、明らかに侮蔑の意味が含まれていることを、一瞬にして私は悟ってしまった。
「な、な、何で………、何で笑うのよ!」
苛立ちながら、放った一言。
苛立つのも、無理はないと思う。
だって、そうじゃないか。
見ず知らずの初対面の男に、いきなり笑われるだなんて。
意味も分からず、嘲笑されるなんて。
私はただ、煙草を吸っていただけだ。
他には、何にもしていない。
おかしいところなんて、何もないのだから。
「ぷっ………、くくくっ、はははははっ!!」
それにしても、笑い過ぎだ。
何が、それほどおかしいんだ。
ああ、私の貴重な朝の時間が、訳も分からず過ぎていく。
至福の喫煙時間が、知らない男に邪魔されて、あっという間になくなっていく。
どうして、こんな知らない男に邪魔をされなければならないのだろう。
知っている人ならば、まだしも。
ほんと、ツイてない。
笑いながら、見知らぬ男は私に近付いてくる。
近付いてきた男は、すれ違い様にこう言った。
「親父みたい。」
「は?」
「仕草とか行動が、親父みたいだなーと思って。だから、笑ってたんだよ?」
サラッと毒を吐いたのに、その顔には爽やか過ぎるほどの笑みが浮かぶ。
その空の青と同じくらいの、爽やかさで。
吐き捨てた毒を含んだ言葉との違いが激しくて、目を丸くして凝視してしまう。
爽やか過ぎるその笑顔には、ほんの少しだけ幼さが残っている気がした。
悪戯をした時の子供の様な、とでも表現すればいいのだろうか。
格好いいというよりは、可愛らしさを感じる笑顔。
それなのに、その口から吐き出される言葉は全くの真逆のもの。
柔らかさなどまるでなく、刺々しい。
毒入りの林檎だ。
それか、毒そのものみたい。
白いシャツに、紫色のネクタイ。
そして、私よりも年下らしい容姿。
見覚えがないから、きっと今日からここに来た人間であるはずだ。