Crescent Moon



ウマが合うのか。

それとも、その他に何かがあるのか。


他の先生ほど気を遣うことがないから、環奈といるのはとても気が楽だ。

この学校で、公私ともに仲がいいのは、環奈だけ。




「ねー、まひるー。」

「ん?何よ?」

「新任の先生、今日から来るんだって!」



環奈がいつもの調子で、コソコソ小声で話しかけてくる。

普段は同僚とはいえ、先生なんて呼び合わない。


小声で他の人に聞こえない程度に話す時は、いつだって素の状態だ。



2人だけの時は、煩わしいから名前で呼び合おう。

人前でだけ、お互いを先生と呼ぼう。


同じ学校で働き始めて、環奈と仲良くなって、自然と私と環奈の間に出来たルール。



「ふーん。」

「ふーんって、まひるー!何か、冷たくない?」

「いや、だって、毎年のことじゃない。新任の先生なんて、去年もいたことだし。」


醒めた口調でそう返せば、環奈が頬を膨らませる。


そんな可愛い顔したって、私には無意味だっつーの。

やるなら、男の先生にやりなさい。



新任の先生。

毎年あるその話に、環奈はやけに嬉しそうだった。


キャピキャピと話すその様子は、制服さえ着ていたら間違いなく女子高生。

これまた女の子らしいワンピースなんか着ていなかったら、先生にさえ見えないことだろう。



どうして、こんなに浮かれる必要があるのか。


毎年、新任の先生なんて何人か来る。

実際、去年だって来ていた。

むしろ、新任の先生が来ない年の方が珍しいだろう。


環奈が浮かれる理由がいまいち分からない私は、首を横に傾げていた。



職員室がいつもと違って見えるのは、新年度が始まるせいなのか。

それとも、環奈みたいに新任の先生のことで浮かれているせいなのか。


ざわつく職員室内は、先生方の話し声で満ちている。



何を話しているのかまでは聞き取れないけれど、きっと似た様な話をしているに違いない。



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