Crescent Moon



どっちも同じ方に賭けてしまうなら、賭けにはならない。


しかし、同じ予想しか出来ないのだ。

こればっかりは、仕方ない。



この空間にいる人間なら、私と環奈と同じことを思うだろう。

うんざりした顔さえ、隠さない先生だっている。


だが、今日だけは違っていた。




「新年度を迎えるに当たって、話したいことは山ほどあるのだが………。まずは、今日からこの学校に赴任してきた先生を紹介しようか。さあ、冴島先生。」


冴島先生と呼ばれた人物が、ゆっくりと校長の後ろから顔を出す。


みんなが期待している、新任の先生。

環奈が噂していた、若い男の先生。



見てやろうじゃない。

どうこうする気はないけれど、この目で観察してやろうじゃないか。


そう思っていたのだけれど、その人が入ってきた瞬間、私の中に流れる時間がほんのわずかだけど、一瞬だけ止まった。










「は?」


新任の先生?

あの人が、あの男が、今日からこの学校に赴任してきた先生だというの?


嘘でしょ。

嘘に決まってる。


冗談だと、ドッキリだと、誰か私に言って欲しい。



目の前に現れたのは、あの男。

ほんの10分前、この学校の屋上で出会った見知らぬ転校生。


転校生だとばかり思っていたのに、そもそもあの男は学生ですらなかったのだ。



ニッコリと微笑んで、転校生だったはずのその男はこう名乗った。





「冴島 直輝[サエジマ ナオキ]です。まだ大学を卒業したばかりで、右も左も分からない新参者ですが、ご指導のほど、よろしくお願い致します。」



去年と同じ学校。

変わらない職場。


変わったことと言えば、新たな出会いが待ち受けていたことくらい。



この出会いが、私の変わらない日常を変えていくことになるだなんて、私は全く考えてすらいなかった。



< 25 / 86 >

この作品をシェア

pagetop