Crescent Moon
どっちも同じ方に賭けてしまうなら、賭けにはならない。
しかし、同じ予想しか出来ないのだ。
こればっかりは、仕方ない。
この空間にいる人間なら、私と環奈と同じことを思うだろう。
うんざりした顔さえ、隠さない先生だっている。
だが、今日だけは違っていた。
「新年度を迎えるに当たって、話したいことは山ほどあるのだが………。まずは、今日からこの学校に赴任してきた先生を紹介しようか。さあ、冴島先生。」
冴島先生と呼ばれた人物が、ゆっくりと校長の後ろから顔を出す。
みんなが期待している、新任の先生。
環奈が噂していた、若い男の先生。
見てやろうじゃない。
どうこうする気はないけれど、この目で観察してやろうじゃないか。
そう思っていたのだけれど、その人が入ってきた瞬間、私の中に流れる時間がほんのわずかだけど、一瞬だけ止まった。
「は?」
新任の先生?
あの人が、あの男が、今日からこの学校に赴任してきた先生だというの?
嘘でしょ。
嘘に決まってる。
冗談だと、ドッキリだと、誰か私に言って欲しい。
目の前に現れたのは、あの男。
ほんの10分前、この学校の屋上で出会った見知らぬ転校生。
転校生だとばかり思っていたのに、そもそもあの男は学生ですらなかったのだ。
ニッコリと微笑んで、転校生だったはずのその男はこう名乗った。
「冴島 直輝[サエジマ ナオキ]です。まだ大学を卒業したばかりで、右も左も分からない新参者ですが、ご指導のほど、よろしくお願い致します。」
去年と同じ学校。
変わらない職場。
変わったことと言えば、新たな出会いが待ち受けていたことくらい。
この出会いが、私の変わらない日常を変えていくことになるだなんて、私は全く考えてすらいなかった。