Crescent Moon
『悪魔、現る』
偶然なのか。
必然なのか。
世の中には、説明出来ない不可解なことが起こることがある。
言葉では説明しきれない、不思議なことが時として起きてしまうのだ。
少しでも、何かが違っていたら起こらなかったであろうこと。
それが、偶然という因子が重なることによって、現実となる。
偶然がより多く重なって、必然的なものとなる。
私とあの男の出会いもまた、そんな小さな偶然という因子が重なってしまった結果なのかもしれない。
あの時、私が屋上なんかに行かなければ。
あの時、あの男が真っ直ぐ校長の元に向かっていたならば。
私とあの男のどちらかが違う選択肢を選び取っていたら、あの時、私とあの男があの屋上で出会うことはなかった。
ただのよくある新任の先生との出会いとしか、この出会いを捉えることもなかっただろう。
私があの男に、これほど悪い印象を受けることもなかったはずだ。
もしかしたら、上辺だけのあの爽やかな笑顔に騙されてしまっていたかもしれない。
年の差から恋愛として好きになることはなかったとしても、可愛い弟の様な存在として見る様にはなっていたかもしれない。
考えるだけで、そんな未来は恐ろしいものだけれど。
本性を知ってしまった、今は。
職員室での対面が、初めての出会いになっていたはずだ。
何の因果か。
私とあの男は、それよりも先に出会うことになってしまった。
誰よりも先に出会い、お互いの本性を知る羽目になってしまった。
いい出会いだった、なんて言えない。
最悪な出会いだったと、はっきり言い切れる。
色褪せた日常が変化していく。
緩やかに流れていた時間が、時を止め、急激に走り始める。
きっかけは、悪魔みたいなあの男。
「な、な、な、な、何で………?」
呟いたその一言に、環奈が不思議そうにこちらを見上げる。
呟きたくもなる。
出来過ぎた、この再会に。