Crescent Moon
思い悩み、つい言葉に詰まってしまう。
言葉に詰まった私の耳に届いたのは、信じられない言葉だった。
「わー、格好いい………!」
「え?」
「最近会った人の中で、1番じゃない!?」
空耳だ。
空耳であってくれ。
そうは思っても、隣からは環奈の興奮した声が聞こえてくる。
あの男、冴島は、どうやら環奈の期待を裏切らない容姿をしていたらしい。
いつもよりも目を輝かせた環奈が、胸の前で手を合わせている。
衝撃を受けたなんてものじゃない。
驚愕だ。
驚きで、言葉を更に失ってしまった。
(か、格好いい………!?)
あの男のどこが、格好いいと言うのだろう。
格好いいだなんて、見た目だけじゃないか。
外見だけしか知らないから、中身を知らないから、そんな言葉が言えるのだ。
きっと。
ほんの少しだけ染められたらしき髪は、黒というよりは焦げ茶色。
短過ぎず、長過ぎない。
ちょうどいいその長さが、染められた髪でも清潔さを感じさせてくれる。
ワックスで癖を付け、若者らしく跳ねさせた髪型。
顔立ちだって、お世辞抜きで悪い方ではない。
目なんか、女の私よりも大きいほど。
肌だって、お手入れを丁寧にしている女の子並みに綺麗だ。
整った顔立ちと、今時とも言える無造作なクセにお洒落に見える髪型。
モテる。
この男、モテるはずだ。
直感で、そう感じる。
そりゃ、環奈も目を奪われる訳だ。
だけど、人間は見た目だけじゃない。
外見だけで判断してはいけない。
これは、経験しているから言えること。
いくら見た目が良かろうと、中身がともなっていないと人間としていいとは言えない。
男であろうと、女であろうと。
恋愛関係においても、それが友達関係だったとしても。
信頼を深めていくことは、人間関係においては重要なことだ。
顔が良くても、信頼出来ない人間であれば、深く関わろうとはどうしても思えない。