Crescent Moon



お互いの性格にもよるものだとは思うけれど、少なくとも私は、あんな初対面の女を傷付ける言葉を吐く男とは関わり合いたくない。

近寄りたくもない。


環奈、男は顔じゃない。

中身だって、大切よ。



「環奈、聞いて。」

「何よー?」

「人は、顔で判断しちゃダメなの。ほら、あの男をよーく見て!」


トローンとした目の環奈に、そう言う。


私の言葉に従って、環奈があの男に視線を向けた。

これでもかというほど、じっと。


じっくり見入った後でも、環奈の緩んだ表情が変わることはなかった。



「何、言ってるの?」

「だから、男は顔じゃないって………」

「何回見ても、合格ラインの遥か上の顔じゃない。」

「いや、だから、そういう問題じゃなくて………」

「まひるは、ああいうタイプの人、好みじゃないの?」


何を言っても聞いてくれない、環奈の見当違いな言葉に、私は肩を落とした。



(ダメだ………、聞いてくれない。)


私はただ、教えてあげたいだけだった。

忠告しておきたいだけだった。


それなのに、あの男に夢中な環奈には、何を言っても響かない。

分かってもらえない。



歯痒くて。

身悶えするほど、歯痒くて。


全て、言ってしまいたくなる。

屋上での一件を、打ち明けてしまいたい気分に駆られる。



あのことを環奈が知ったら、考えを変えてくれるだろうか。

目を覚ましてくれるのだろうか。


それでもなお、言い淀んで、控え目な言葉で諭そうとする私。



「環奈、悪いことは言わないから、止めておいた方がいいと思うんだけど………」


諦め悪く、まだ説得を続ける私に、環奈はこうはっきりと告げた。



「まひるは狙わないでね?冴島先生、久々の優良物件なんだから!」


物件って。

しかも、優良って。


あんな男、優良なんかじゃない。

誰が狙うもんか。


狙って下さいってお願いされたって、ごめんなさいって断ってやる。



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