Crescent Moon



「は!?」


は?

はい!?


思わず、漏らしてしまった声。



教師になって、今年で7年。

今年も担任を任せてもらえることは知っていたし、それが2年生になるであろうこともあらかじめ教えてもらってはいた。


ただ、副担任の情報までは知らなかった。

今の今まで、教えてもらってなどいなかったのだ。



(ど、どうして私なの!?何で、あの男と同じクラスを受け持たなきゃならないのよ!)


私の名前の後に呼ばれたのは、間違いなくあの男の名前。


冴島 直輝。

忘れられるものか。


屋上で私を嘲笑った、あの憎き男の名前を。



予想外だ。

こんなの、私の予想出来る範囲を越えている。


嬉しいことが予想を越えるのならば大歓迎だけど、こんな予想外の出来事が起きるのなんて、嬉しくもない。

むしろショックを通り過ぎ、腹立たしい。



「せ、瀬川先生………どうかなさったんですか?」


私の素っ頓狂な声を聞き、周りにいた先生方が心配そうに声をかけてくれる。


心配かけて、ごめんなさい。

ただ、思っていたよりも、現実は私には優しくなかった。


甘い現実は、私には用意されていないらしい。



「いえ、別に………何でもないんです。」


何でもないことはないけれど、こう答えるしかない。

他に、どう言えばいいのか。


あんな男と、同じクラスを受け持ちたくありません。

あの男の本性、知らないですよね?


そう言えたら、どんなに良かったか。



「………っ、………!」


1年という時間は短い様で、長い。

楽しいことばかりだったなら、きっとあっという間に終わっていくことだろう。


しかし、それが楽しくないことばかりなら。

苦難が待ち受けていることが分かりきっているなら、この1年は、私にとっては長く感じられる1年になるはずだ。



1年間、あの男と同じクラスだなんて。

あの男と組んで、生徒を導いていかなければならないなんて。



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