Crescent Moon



嫌だ。

嫌だ。


考えただけでも、頭が痛い。



隠そうとしても、隠しきれない動揺。


そんな私を笑っているのか。

あの男の視線が、私に対して向けられる。


その視線は、どこまでも爽やかで、好青年そのものの視線だった。











「いいなー、まひる!」


校長の思ったよりもずっと短い話が終わって、職員室の端っこで話し込む私と環奈。


まだ、ホームルームが始まるまでには、少し時間がある。

校長の話が早く終わってくれたからこその時間に、すかさず環奈が話しかけてきたのだ。



「いいなーって、何のこと?」

「決まってるじゃない。まひる、冴島先生と同じクラスを受け持つんでしょ?」

「そう………みたいだね。」

「そうみたいだねって、他人事みたいね!」



他人事だったら良かった。

むしろ、そうなって欲しかったよ。


あの男と同じクラス。

これから1年間、その事実に耐えなければならない。



最悪だ。


誰なんだろう。

この人事を決めてくれたのは。


変えてもらえるのなら、今からでも直談判しに行きたいくらいだ。



「代わってあげたい………。」


代わってあげたいというか、代わって下さい。

割と、本気でそう思ってる。


私とは違い、環奈はあの男に好印象を抱いている。

外面しか知らないから、あの男の中身が真っ黒だということを知らないのだ。


だからこそ、環奈は私が羨ましい。

同じクラスを受け持つことになってしまった、私の立場を羨むのだろう。



ボソッと呟いた一言は、環奈の耳には響かない。

届いたところで、環奈は喜んでそれを受け入れてくれそうだけれど。


環奈の頭の中は、あの悪魔のことでいっぱいなんだ。

新しいターゲットのことで占められているんだ。



コソコソと声を潜めて話す私と環奈に近付く、1つの人影。


明るめなその髪を揺らしながら近付くその人は、音も立てずに私の隣にそっと立つ。



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