Crescent Moon
「はあ………。」
最悪、と一言呟いて、煙草に火を付ける。
煙草の煙が、うっすらと白い色を纏わせて昇っていく。
雲と同化して、消えていく。
穏やかな朝の時間は、悪魔によって邪魔されて。
私の真横には、無表情で私に軽蔑の意味を含んでいるらしき視線を送る男が1人。
煙草を吸われるのが嫌なら、近付かないで欲しい。
こっちだって、あなたの隣になんていたくないのだから。
それなのに、冴島が屋上から立ち去ることはなかった。
「どうして、あなたがここにいるの?」
朝っぱらから、あなたに会うなんて。
そう愚痴めいた言葉を容赦なくぶつけてやれば、私の言葉を涼しげな表情でサラッと流す冴島。
ほんと、憎たらしい。
この男に、赤い血は流れているのか。
悪魔なんて心の中では呼んでいるけれど、本物の悪魔なのではないのか。
「真っ直ぐ職員室に行くほど、俺、真面目じゃないんで。」
ニッコリ笑って、そう言う冴島。
その笑顔には、爽やかなんて感じられない。
あるのは、黒い笑み。
隠された、皮肉めいた微笑みだけだ。
(あ、悪魔だ………。この男、やっぱり二重人格だ!)
笑顔の後ろに、悪魔の影が見えるよ。
黒いしっぽが見えるよ。
毒々しく微笑む悪魔が、私よりもずっと高い位置から私のことを見下ろしている。
私だって、そんなに出来た人間なんかではないけれど。
完璧な人間なんて、そもそもいないのではないかと思っているけれど。
ここまで、裏と表がはっきりしているのはどうかと思う。
「出て行って欲しそうな顔、してる。」
「う………、そ、それは………」
出て行ってくれ。
もう何も言わず、早く立ち去って下さい。
そんな思いを込めて見上げてみても、私の小さなお願いなんて呆気なく一蹴されてしまった。
「出て行ってあげたいんだけどねー。」
「え!?」
「でも、ここ、あんただけの場所じゃないだろ?」
はい。
私が、バカでした。