Crescent Moon
「んー、まあ、そのうちね!」
そう答える度に、どれだけ心で泣いてきたことか。
顔で笑ってもそう答えても、心では泣いていたなんて誰も知らないだろう。
隠し通して、ここまで来たのだ。
そんなの、余計なお世話だっつーの。
私だって、恋がしたい。
私だって、結婚したい。
だけど、相手がいないんだもん。
仕方ないじゃない。
こればっかりは、どうにもならない。
ああ、ついにこの時が来たか。
私からしてみれば、そんな感じだ。
いつかは聞かれるのだろうと、腹を括っていた。
いくら放任主義の親でも、娘の心配くらいはする。
三十路間近の娘の心配を。
定職に就いているとはいえ、娘の未来は心配なのだ。
きっと。
「………いないよ、今は。」
正直に、そう答えた。
実の母親に隠したって、しょうがない。
いつかはバレることだし、永遠に隠し通せるとも思ってはいない。
知り合いに付き合っている彼氏のフリでもしてもらえれば、この場は乗り切れるだろう。
しかし、その先もずっとフリを続けてもらう訳にもいかない。
いつかはいないことがバレてしまうのなら、今、正直に言ってしまった方がいい。
「はあ………。」
腹を括って正直に答えた娘に、母親はうんざりした様に溜め息をつく。
大きく大きく、私にもしっかりと聞こえる様に。
母親の溜め息が聞こえただけで、何だか気分が果てしなく重くなってしまった。
「何も、そんなに大きな溜め息つかなくったっていいじゃない!!」
思わず漏らした愚痴。
そりゃ、愚痴だって言いたくもなる。
あんなにわざとらしく、溜め息なんかつかれた日には。
私の反抗に、母親の眉毛がピクリと動いた。
「私は、あなたの心配をしてるのよ!?あなたが………まひるがお嫁に行けないんじゃないかって、真剣に心配してるのに!」