Crescent Moon
(この………二重人格男が!)
わざとらしく、先生扱いなんかして。
本音を隠して、爽やか好青年なんて演じやがって。
分かっていても、腹が立つ。
ああ、どうして、こんな男と同じクラスになってしまったんだろう。
よりによって、どうしてこの男と同じクラスでなければならなかったのか。
不運としか、言い様がない。
いや、不運なんて言葉だけでは足りない。
史上最大の悪夢だ。
無意識に、痙攣しているみたいにピクピクと顔が引きつる。
苦虫を噛み潰した様な顔の私に対し、あの男は相変わらずの爽やかな笑顔。
何も知らない人から見たら、きっと楽しそうに会話をしている同僚にしか見えないだろう。
担任と副担任。
先輩教師と新任教師。
その裏なんて、本人しか知り得ないのだ。
(こんな顔のまま、教室になんて行けない………。)
腐っても、私は教師だ。
プライベートはダラダラしていても、ここにいる私はきちんとした人間でありたい。
生徒の見本となる様な、そんな人間でありたい。
笑顔を作れ。
どんなに気に入らないことがあったとしても、それを内側にしまい込め。
私は教師だ。
先生なんだ。
生徒のお手本にならなければいけないのだから。
みんなの前に立っても、恥ずかしくない人間でなければいけないのだから。
ドアの前で、気持ちを切り替える。
公私の区別は、これでもきちんと付けてる方だ。
プライベートは、プライベート。
ここにいるのは、プライベートの私じゃない。
「よし!」
気合いを入れて、短く言葉を発する。
そして、振り向きもせず、勢いよく自分のクラスのドアを開けた。
ドアを開けた向こうには、たくさんの生徒達の顔が見えた。
私の顔を見て、みんなが慌てて自分の席へと戻っていく。
そんな生徒達を見ながら、私は元気よく、声を張って挨拶をした。