Crescent Moon
「………瀬川先生?」
何をやっているのだとでも言いたげに、まるで変な人を見るかの様に、私の顔を見る冴島。
何よ。
何なのよ。
そんな目で、私のことを見ないでよ。
「別に、何でもない。」
10年前を思い出そうとして、それが出来ないことに切なくなっていました。
遠い昔のことを思って、懐かしもうと思っていました。
なんて、言えるか。
口が割けても、この男にだけは言いたくない。
心のうちを知られたくない。
無愛想に返事を返し、ホームルームを再開する。
「今日の予定は、こんな感じかなー。」
取り立てて、注意することもない。
言わなければならないことも、それほどない。
極々普通の、よくある1日だ。
一通り伝達事項を伝えてから、パタンと音を立てて出席簿を閉じる。
欠席者はなしと素早く書き込んで、私はぐるりと教室を見回した。
先ほどまではあんなに騒がしかったのに、今では真面目に私の話を聞いている。
真剣な眼差しが、一心にこちらに向けられている。
高校生にもなれば、それくらいの分別はあるのだ。
半分以上、ほぼ大人の様なものなのだから。
このクラスの担任になってから、1週間が過ぎた。
自分が受け持つクラスの子の顔と名前は、もう初日の段階で完璧に覚えている。
これから1年間、この子達とこの教室で過ごしていく。
毎時間ではないけれど、他のどの学年の生徒達よりも、長い時間をこの子達をここで過ごしていくことになるのだ。
頑張ろう。
この子達を正しい方向へ導いていける様に、力を尽くそう。
そう思えば、やる気も自然と出てくる。
さっきまでのイライラも、どこかへ飛んでいく。
生徒は、教師にとって宝物。
少なくとも、私はそう思っている。
だからこそ私は教師という職に就いているし、憧れて目指してきたのだ。
この子達は、私の宝。
この子達がいるから、私は頑張れるんだ。
教え子がいなかったら、私はここにはいられない。
教壇に立つことすら出来ない。
大切な宝物である生徒達に向けて、心を込めて声をかける。