Crescent Moon



「それでは、今日も1日頑張りましょう!」


にっこりと、最高の笑顔で。

私の心からの笑顔に、生徒達の表情も自然と綻ぶ。



これだから、この仕事を辞められない。

この仕事に就いて良かったと、教師になって良かったと、そう思うんだ。


この笑顔を守りたい。

導いていきたい。


他の先生ではなく、私自身のこの手で。







(さーて、職員室に戻らなくちゃね。)


ホームルームが終わったからには、とっとと根城である職員室に戻らなければならない。


1時間目のコマに授業の予定が入っていれば、その準備に終われるのが、忙しいこの朝の時間。

1時間目が空きで授業がなかったとしても、雑務という名の仕事が山盛りで私のことを待っている。


朝から晩まで、暇な時間なんてありはしないのだ。



ホームルームが終わり、教室を出ようとする私。

そんな私に話しかけてくる、1人の生徒。


私よりもほんの少し背の高いその子は、親しげに声をかけてきた。



「先生、ホームルームお疲れ様ー!」


お疲れ様も何も、これは仕事の一環なのだから。

当たり前のことをやっているに過ぎないけれど、お疲れ様と言われれば悪い気はしない。


戸田くん。

戸田 爽汰[トダ ソウタ]くん。


この子は、去年も私が受け持っていたクラスに在籍していた男の子だ。

入学したばかりの頃なんて、ほんとに中学生かというくらい、子供っぽくてどこか幼かったことをよく覚えている。



1年に続き、2年に進級してからも、持ち上がりで私が担任をすることになったのは何か不思議な縁があってのことなのだろう。


誰とでも打ち解けられる、その人懐っこさ。

運動神経抜群で、スポーツ万能。


そんな彼は、クラス替えがあってからも、あっという間に新しいクラスの人気者だ。



サッカー部のエースにして、1年生の頃から試合ではレギュラーメンバーとして部を明るく引っ張っていく存在。

サッカー部の中では頼もしいことこの上ないけれど、勉強面では………もう少し頑張って欲しいところもある。

担任としては。


しかし、素行面も悪くない彼は、優等生とは言えないけれど、教師にも生徒達にもウケがいい。



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