Crescent Moon



「戸田くん、おはよう!今日も朝から、あなたは元気ねー。」


苦笑いを浮かべて、戸田くんにそう返す。


ほんと、羨ましいくらいにこの子は、いつでも元気だ。

その明るさが、周りにいる人間にもいい影響を与えているのは言うまでもない。


この子の周りには、人が集まる。

この子の笑顔に影響されて、周りにいる人間まで笑顔になる。


不思議な子だ。



「元気だけが、俺の取り柄だからさ!」


満面の笑顔で戸田くんはそう言って、わざとらしくその場で跳ねて見せる。


戸田くんが跳ねる度、そのサラサラな黒い髪も揺れて。

黒い髪に朝の陽射しが反射して、キラリと輝く。



「元気が有り余ってるなら、その分を勉強にも回してね。」

「は!?」

「戸田くんは、元気が取り柄なんでしょう?」

「はい!」

「今日は私の授業もあるから、期待してるわね!」

「マ、マジか………」


優しさだけが、人を大きく導いていくんじゃない。

いつも優しくしてあげたいけれど、時には人として厳しさも必要なのだ。


ふふっと軽く笑いながら、戸田くんにそう言う。

言われた方の戸田くんは、分かりやすいくらいに肩を落としているのだから面白い。


落ち込んで肩を落とす戸田くんの後ろから、1人の女の子が顔を出した。



「爽汰ー、まひる先生と何話してんのよーーー。」


戸田くんにぴったりくっついて、抱き付く様な形で上目遣いで見上げる女の子。

その子は戸田くんと同じく、この学校の制服を着ている。


その子に抱き付かれた途端、戸田くんの顔から笑顔が消え、代わりに苦しそうに顔がどんどん歪んでいった。



「お前、離れろよ!」

「嫌ですーーー。」

「あっち行けよ、彩!!」


彩。

そう呼ばれた女の子。


唐沢 彩[カラサワ アヤ]ちゃん。



私の受け持つクラスの生徒ではなく、隣のクラスの生徒だ。

そうは言っても、去年から同じ学年を受け持っていたのだから、他のクラスの生徒とはいえ、名前と顔くらいは知っている。


その子の人となりまでは、深く知らないけれど。



見た目は、ちょっと派手めな女の子。

今時の、とでも言えば分かりやすいだろうか。



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