Crescent Moon
校則ギリギリの明るめの髪は、毎日綺麗にコテで巻かれている。
メイクなんて、高校生とは思えないほどの上手さだ。
長くてボリュームのある睫毛に、大きな目。
ほんのり柔らかなチークに、ぷるるんと揺れる濡れた唇。
受け持ったことがないから、どんな生徒かまでは掴みきれていないけれど、戸田くんに気があることだけは確かみたいだ。
ほら、こうしている間にも。
「ねー、爽汰ー。次の授業、化学なんだけど………教科書忘れちゃった!」
「は?お前、バカじゃねーの!?」
「貸して?」
「嫌だし。」
「お願ーーーい、貸してよ!」
可愛らしくそう言って、首を傾げてみせる。
体は、戸田くんに密着させたままで。
この子、魔性の女だ。
絶対分かってて、わざとやってる。
同じ女だから、嫌でも分かること。
「またかよ。っていうか、お前は教科書忘れ過ぎなんだよ。」
「しょうがないじゃん!忘れちゃったんだから。」
「………、ロッカーに入ってるから、勝手に持ってけよ!」
戸田くんの態度は、私に対するそれとは対照的だった。
無愛想で、どこか戸田くんらしくない。
きっと、同い年だからこそなのだろう。
私と戸田くんは、1回りも年が離れている。
目上の人間に対しては、親しみを込めてわざと敬語を使うことはしなくても、無愛想な態度までは取れないのだ。
「ありがとー、爽汰!」
「あー、はいはい。分かったから、今度から忘れ物は控えて下さい。」
「また忘れちゃったら、貸してくれるんでしょ?」
「忘れること、前提かよ!ふざけんな!!」
無邪気に戯れる姿は、何だか眩しかった。
自分が失ってしまったものを見ているみたいで、キラキラしている様に、私の目には映った。
きっと、私はもうこんな風にははしゃげない。
無邪気に触れ合えない。
今の自分にはないものを、この2人は感じてしまうのだ。
私が目の前の若い2人に気を取られているうちに、別の人物が教室の外から顔を出す。
その人は唐沢さんに負けないくらいの大きな声で、私のことを呼んだ。
「失礼しまーす!瀬川先生、お邪魔しますね?」