Crescent Moon
『夕暮れの教室で』



どうして、こんなに寂しさを感じているのだろう。

どうして、こんなに複雑な気持ちに陥っているのだろう。


冴島と環奈、それに戸田くんと唐沢さん。

あの4人の中には入れなかった。

はみ出して、浮いていると自分で感じてしまったのだ。



教室の中で楽しそうに話す4人の周りだけ、空気が違って見えた。

キラキラ、と表現すればいいのか。

どこか輝いている様に、私の目には映ったのだ。


だから、逃げた。

逃げてしまった。



私とは違う。

私みたいな女とは違う。


悪魔みたいな裏側を知らずに、あの男に胸をときめかせる環奈。

分かりやすいくらいにアピールして、戸田くんに想いを寄せる唐沢さん。


恋をしている女の子は、それだけで違って見えるものだ。



内面から、美しさが滲み出ている。

恋をすると女は綺麗になると言うけれど、その言葉は本当なのだなと、環奈と唐沢さんを見ていると感じる。


真っ直ぐな瞳は輝いて、肌は艶めく。

感情が表へと出て、生き生きとしている。


私は羨ましかったのかもしれない。

だから、何もない自分を直視したくなくて、思わず逃げ出してしまったのかもしれない。



憧れて、恋をするものではないことも分かっている。

焦って、恋が出来るものではないということも知っている。


だけど、羨ましかった。

私にはないものだったから。



恋なんて、もう何年もしていない。

恋人がいた記憶を忘れてしまうほど、遠い昔に別れた元彼。


恋から遠ざかり、恋をする気配するない自分がひどく惨めに思えた。

恋愛体質になれない自分が女ではない様で、そんな惨めな自分が受け入れられなくて、私はあの場から逃げ出したのだ。



逃げ出したって、何も変わらないのに。

他人を羨んでも、仕方ないのに。


逃げることしか出来ない自分は、ダメな人間だ。






季節が、少しずつ変わっていく。


美しく咲き乱れていた桜が散り、無惨に地に落ちて。

花びらがあったその場所には、緑が溢れていく。



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