Crescent Moon
週末や連休前の今日の様な日には、必ずと言っていいほど、こんな会話が繰り返されている。
何も、今日が初めてということではないのだ。
照れた様な仕草で、だけど少しだけ困った様子の環奈が、受け答えをしている。
「急に、そんなことを言われましても………。お誘いは、とってもありがたいんですが。」
やんわりと断ろうとする環奈の視線の先にいるのは、何故か私。
視線を向けてくる環奈が、目だけで訴える。
まひる、助けて………と。
お願い、と。
(はっきり断らないと、またしつこく誘われるだけだよ………環奈。)
環奈が困っているなら、助けてあげたい。
せっかく縁があって、ここまで仲良くなれたのだから。
だけど、これは環奈の問題だ。
環奈自身の手で解決しなければならないから、あえて私は助けの手を差し伸べないのだ。
決して、意地悪をしている訳じゃない。
環奈だって、子供ではない。
25歳の、立派な大人の女性だ。
例えば、今回に限り、私が助けたとしよう。
しかし、また同じ様なことがあったらーーー………
それも、私がいない場で、同じことがあったのならーーー………
次も、助けてあげられるとは限らないのだ。
助けてあげることが、必ずしも本人の為になるとは思えない。
嫌ならば、自分自身の口から、自分の言葉で断らなければ。
自分で誘いを断ち切る術を見出ださなければ、同じことはまたきっと起こるであろう。
(ごめん、環奈!)
冷たいかもしれないけれど、これも環奈の為だ。
許してね。
何となくその場にいられなくなった私は、ファイルと持っていた出席簿を自分のデスクに置いてから、そそくさと職員室を後にした。
「先生、さようなら!」
「瀬川せんせー、またねーーー!!」
廊下を歩く私に、声をかけてくれるたくさんの生徒達。
休みの前ということもあって、その顔から笑顔が消えることはなかった。
明るいその顔を見て、私の表情も自然と緩む。
「さようなら、気を付けて帰ってね。」
生徒達の挨拶に応え、別れの言葉を口にする。