Crescent Moon
認めたくない変化が、私の心を乱していく。
「………。」
「………。」
動揺してしまって、言葉を失う私。
そして、再び口を閉ざす冴島。
穏やかだと思っていた空気は既に変わっていて、危ういものとなる。
縮まる距離。
吸い込まれる様に、だけど、自然に縮まっていく距離。
どちらから近付いたのだろう。
そんなことさえも分からないほど、それは自然に起こったものだった。
私だって、子供じゃない。
この先の展開なんて、他人に言われなくても予想がつく。
ベタな恋愛ドラマを見ているみたいで腹が立つのに、距離を開けることが出来ない。
もっと近付いて欲しいだなんて、そんなことまで思ってる。
肩を抱かれ、体をすっと引き寄せられる。
限りなく近い距離は、ついに0になる。
お互いの息遣いを感じてしまうほど、近くに冴島の顔がある。
止めてよ。
離れてよ。
どっかに消えてよ。
いつもだったら簡単に言えていた言葉が言えない。
言いたくないと思ってしまう。
はね除けようと思えば出来るはずなのに、今の私にはそれが出来なかった。
流されてるって分かっていても、止められなかった。
拒めなかった。
分かってしまったのだ。
私は、心のどこかでこの男を求めているのだと。
嫌いだと口で言いながらも、環奈と同じく、この男に惹かれていたのだと。
大嫌いだったはずなのに、求めている。
欲しいと思っている。
曖昧な感情を持て余して、それでもまだ認めたくなくて、戸惑う。
「目、閉じろよ。」
無愛想なまま、冴島がそう言った。
「分かってるわよ、…………バカ。」
好きじゃない。
好きになりたくない。
それなのに、私は目を閉じた。
唇に感じた違和感が、じんわりと広がっていく。
優しく触れる、何か。
柔らかい唇が、そっと私のそこに触れる。
冷たいとばかり思っていた唇は、あいつとは正反対で、思っていたよりもずっと温かくて。
一瞬触れただけで、すぐに離れてしまった。