Crescent Moon
「相手なら、お母さんが見つけてあげるわ!」
「え?」
「まひる、あなた………お見合いしなさい!!」
それからの日々は、あっという間だった。
毎日、仕事帰りに母親に呼び出された。
呼び出されれば、鬼の形相でいろいろなことを仕込まれて。
テーブルマナーだの、礼儀作法だの、花嫁修業でも受けているみたいな日々。
「相手の方に、失礼がない様にね。」
「………。」
「まひる、しっかりやるのよ?」
「はぁーい。」
ハキハキとした口調で、お母さんはそう言い付けてくる。
お見合いをする本人よりも、誰よりも張り切っているのは目の前にいるこの人だ。
誰よりも張り切り、誰よりもこの状況を楽しんでいるに違いない。
親にとっては、子供はいつまで経っても子供なのだろう。
お母さん。
テーブルマナーだって、ほんとは知ってるよ。
礼儀作法だって、失礼がない程度には出来るつもり。
これでも、社会人になって随分経つ。
母親はまだ子供だと思っていても、私は何も知らない子供ではないのだ。
だけど、お母さんから見たら、それでも不安になるらしい。
そうして、迎えた今日。
慣れない着物に袖を通し、帯をきつく締められる。
艶やかな赤の振袖は、成人式の時に作った物だ。
あの頃とは全く違う気持ちで、またこの振袖を着る日が来るなんて。
まさか、お見合いで着るが来るなんて。
成人式の日の私は、想像すらしていなかった。
慣れない着物で連れて来られたのは、大きなホテル。
最近出来たばかりだという、小綺麗なホテルだった。
宿泊料金がとんでもなく高いのだと、同僚の1人が話していた気がする。
「ほら、最近出来たばかりのホテルあるでしょー?」
「ああ、あそこ?」
「あのホテルね、泊まるとすっごく高いらしいよ!片手じゃ足りないって!!」
「えー!?自分のお金じゃ、泊まれる気がしないんだけど………。」