Crescent Moon



人を笑顔にする。

汚れてしまった心を洗って、癒してくれる。


不思議な力に導かれて、自然溢れる地での時間はあっという間に過ぎていく。



「ねえねえー、ご飯焦げちゃったんだけど………。」

「ちょっと、ちゃんと火加減見てなよって言ったじゃん!!」

「あれ?カレーに入れる野菜って、どのくらいの大きさで切るんだっけ?」


ケンカをしつつも楽しそうな会話に耳を傾けつつ、私自身もこの自然を満喫している。



夜ご飯のメニューは、カレーライスだ。

毎年同じメニューであることは、きっと先輩から聞いていて、ほとんどの生徒は知っていたことだろう。


いつもとは違う環境で作るカレーライスに悪戦苦闘している様子が、大人の私から見れば微笑ましく見える。



ここには、ガスもない。

電気もない。


火を自らの手で起こして、ご飯を飯ごうで炊く。

野菜を切って、肉を炒めて、親の手を借りずにカレーを煮込む。


そのことに戸惑っているはずなのに、みんなの顔には笑みが溢れていた。



困っているのに、どこか楽しげで。

じゃれ合いながらも、協力して、1つのものを作り上げていく。


それこそが、このメニューを毎年選ぶ意味でもある。



飯ごうで炊く、真っ白なご飯。

底の方こそ焦げてしまっているけれど、表面はつやつやと白い輝きを放っている。


電気を使った炊飯器では、同じ輝きは見られないだろう。



それに、不揃いな野菜のカレー。

たまに固いところもあったりするけれど、それもまた違った食感で楽しく感じるものだ。


みんなが作り上げた、素敵な夜ご飯。


美味しくないはずがない。

全てを食べ終え、笑いが絶えない食事の時間が過ぎていき、長かった様で短い初日のスケジュールは滞りなく終了した。




澄んだ星空の下、立ち並ぶテントの群れ。


うちの学校の宿泊学習は、他の学校のそれと比べても、本格的なものだと自負している。

本格的なものであるからこそ、準備期間は大変になるのだけれど、それはここだけの話。


電気が通ったロッジやホテルに泊まったのでは、本当の意味で自然の中にいるとは言えない。



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