Crescent Moon
キャンプで外に泊まることも出来、ロッジを選べば快適な夜を過ごすことも出来るという点が売りの場所を貸し切り、選んだのはもちろん外で過ごす夜。
よほどの悪天候ではない限りは、朝まで狭いテントの中で眠ってもらうのだ。
さすがに土砂降りの雨になってしまったらという状況下ではロッジを借りることになってはいるけれど、晴れているのならば屋外でのびのびと過ごしてもらおう。
テントを使って眠るだなんて、普段ならばそんな機会はまず訪れないだろうから。
昔の人。
遠い遠い過去の時間の中で生きてきた人は、外で眠ることが当たり前だった。
もう何千年も昔の人は体を寄せ合いながら、朝を待った。
大自然の中で眠るなんて、滅多に出来ない貴重な体験だ。
そんな貴重な体験を、大切な時期である今だからこそ、させてあげたい。
だからうちの学校は、昔ながらのことをわざと行って、今どきの宿泊学習から外れたことをやる。
それが生徒の為になると、私達自身も考えて、決めているのだ。
貴重な体験となるのは、生徒達に限ったことではない。
それは、私達、教師にとっても同じこと。
こんな夜は、何故だか心が騒ぐ。
浮かれている訳ではないのだけれど、そう早く眠れるはずがない。
眠れずに、みんなが寝静まったであろう深夜、私はそっと自分のテントを抜け出した。
(全然、眠れる気がしないんだけど………。)
この時間になるまで、何度も眠ろうと努力だけはしていた。
どうでもいいことを考えてみたり、明日の計画を思い起こしてみたりして、時間を潰して。
眠くなる様にと、目を疲れさせる為にしおりを読んでみたりもした。
しかし、眠気は覚める一方で、脳内は逆に活性化してしまったではないか。
ああ、思い出した。
そういえば、私、バスの中で寝ていたのだった。
うたた寝程度の浅い眠りであったはずだけれど、少しの時間でも明るい昼に眠ってしまっていたら、この時間に眠気が飛んでしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
ああ、どうしよう。
明日も宿泊学習は続くし、朝だって寝坊なんて出来ないのに。