Crescent Moon
そう考えれば考えるほど、眠くなくなってしまう。
(これは、見回りだって!)
眠れないから、仕方なく歩いているんじゃない。
見回り、ということにしておこう。
私みたいな輩が、外をうろついているかもしれない。
浮かれている若い生徒達が、テントを抜け出しているかもしれない。
いかがわしいことまで始めようとする子はいないとは思うけれど、見回りという名の散歩をする理由は、私には十分過ぎるほどある。
そうそう、眠れないからじゃない。
何かあった時の為に、見回りをしよう。
そう決めたものの、外を歩いて気が付いたのは、不気味なくらいに静かな夜であるということだった。
「誰もいない………。」
それも、そのはず。
只今の時刻、0時過ぎ。
暗闇の中で聞こえるのは、自分自身の声だけ。
静かな空間に、他人の気配も声も存在してはいなかった。
あれだけ、朝から頑張っていたのだ。
張り切って各々の活動をこなしていた生徒達は、疲れ果てて眠っている。
ぐっすりと眠って、幸せな夢の中にいるのだろう。
起きているのは、自分だけ。
世界の中で取り残された様な気分。
ちょっと足を伸ばして、テントの中を覗いてみれば、そこに誰かがいることは分かっていても、おかしな錯覚に囚われてしまう。
たった1人、私だけの世界。
不気味な闇を切り裂いて、ゆったりと足を進めていく。
その歩みに、目的地はなかった。
行きたい場所なんて、どこにもなかった。
あえて言うならば、何となく。
ただ何となく、歩いてみたい気分だっただけだ。
どこかで、名前も知らない鳥が鳴く。
ひっそりと、この夜の空気みたいにそっと鳴く。
怖いとは思わなかった。
不気味であることは確かだけれど、不思議なことに恐怖感は抱かなかった。
あてもなく歩いて、辿り着いたのは知らないところ。
「こんなとこに、ベンチなんてあったんだ………。」
施設の見取り図にも載っていない、小さな裏庭。
ロッジの奥に隠れる様にして、その姿をようやく表したもの。
裏庭と呼んでいいのかすら分からない、土が剥き出しになっているだけの空間にポツンと置かれた1つのベンチが目に入る。