Crescent Moon



空に浮かぶだけの月に対して、湧いた親近感。

それと同時に感じてしまった、寂しさ。


月を見上げて、こんな風に思うだなんて、何だかおかしい。

おかしいことは分かっているのに、欠けた月を見ていると、どうしてか寂しくて虚しい。



ギュッと、胸が締め付けられる。

心が痛い。


空に浮かぶだけのあの月も、虚しさを感じているのだろうか。

1人ぼっちでそこにあって、寂しくはないのだろうか。


私みたいに、たった1人で。

じんわりと、涙が浮かびそうになった、その時だった。









「こんなとこで、何してるの?」


聞こえたその低い声に反応して、体が揺れる。

少し離れた場所から聞こえた声に、私はその声の主を目で探す。


誰だろうと、そう考えることはなかった。



私は知っている。

この声の主を、私はよく知っている。


憎らしいほどに涼しげな瞳で、どこから私を見下ろしているのだろうか。

冷たく見下ろすその姿は、どこにあるのか。



(どこなの………?)


月明かりしかない中で、目を凝らして探す姿。


他には誰もいないから、無防備に素を出しているに違いない。

この場所に私以外の誰かがいたならば、あの男が本性を現すことはなかっただろう。


私にだけ。

そう、私にだけ見せてくれる顔。



暗闇に慣れてきた目で、ようやくその姿を捉えることが出来た。


建物の影に隠れる様にして、あの男、冴島は立っていた。

真っ黒なジャージを着たその姿は闇と綺麗に溶け込んでいて、容易に見つけられなかったその理由を知る。



今日1日、何度も私達は顔を合わせていた。

同じクラスを受け持つ教師である2人は、どちらかが避けようとも離れることなど出来やしない。


顔を合わせても、視線だけは合わせない様にしていた。

一瞬合ってしまった視線でさえも、すぐに逸らしていた。


深く関わりたくなかった。

出来ることなら、離れていたかった。



どうしたって、思い出してしまう。

理由を知りたくなってしまう。


あのキスを、冴島の顔を見てしまえば思い出してしまうのだ。

あのキスの意味を、知りたくなってしまうのだ。



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