線香花火
* * *

「澪波ー!聡太くんが来てるわよー。」
「へ?あ、聡太!?」

 何故戻ってきてからというもの、毎日顔をあわせているのかと問いたくなるくらいには会っている。しかも今は7時。常識的に考えたら、来てはいけない時間である。

(すっぴんでもいいか、聡太なら。)

「はーい。どうしたの…。」
「澪波、ごめん!」
「何が?」
「昨日俺が先に落ちただろ?」
「ちゃんと送り届けましたけど?」
「それ!ほんっとごめん!酒に弱いわけじゃないんだけど、油断してた。」
「別に大丈夫だよ。体調は大丈夫?ていうか仕事じゃないの?」
「これから。朝早くに悪いと思ったんだけど、今しか時間なくて。」

 そんな風に言われると怒る気も失せる。というか、そもそもそんなに怒ってはいない。

「先に落ちたことも謝りたかったけど、…もう一つ。」
「え?」

 聡太の意外とごつごつした指が、澪波の目元に触れた。

「な、なに…?」
「…泣かせた。それもごめん。」

 指が優しく目元から離れていく。温みが消えていく。

「…泣いてないよ。」
「…目は正直だって。」

 昨日は見ないふりをしてくれたのに、今日はそうじゃない。見ないふりをしてほしいのに。

「半信半疑だったけど、確認しに来て良かった。」
「え…?」
「いや、こっちの話。で、お詫びをしたくて。」
「え、いや、大丈夫。別に放っておいてもらえれば大丈夫だから…。」
「放っておきたくない。日曜、時間ある?」
「…まぁ、暇だけど。」
「じゃ、夜7時に迎えに来るから。」
「ちょ、待ってよ!なんで日曜…。」

 勝手に進んでいく話についていけない。嫌というわけではないけれど、お詫びをしてもらうほどのことをされた覚えがない。

「土曜はゆっこと出掛けるんだ。」
「違う違う!そういうことじゃなくて!お詫びなんて大丈夫だって…。」
「…わかった。じゃあ待ってる。」
「はい?」
「土曜夜から日曜日の時間、いつでもいい。澪波が来るの待ってる。俺に会いたくなきゃ来なくてもいい。澪波に任せる。いいもの、準備しとくけど、澪波の気が向いたらで。
…って時間やばい!じゃ、いってきます!」
「ちょっ…そ、聡太!っ…あいつ…!」

 そんな言い方は卑怯だと罵りたくなったが、思い起こせば自分も昨夜、同じようなことをやっている。

「…お互い様、か。」

 澪波は深く息を吐いた。
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