線香花火
「先に落ちたらジュース1本。」
「わかった!」

 涙でぐずぐずな鼻。目は真っ赤だ。でももう吹っ切れた。どうにでもなれ。
 パチパチと広がっていく火花を見つめる。その先の聡太は、火花を見つめていない。

「な、なんでこっち見て…!」
「あ、落ちたー。じゃあラムネ1本買ってやるよ。」
「っ、それはありがとう。」

 そこまではいつも通りの顔だったのに、突然真剣な表情になる。これには焦る。

「…なぁ、澪波。突っ込んだ話してもいい?」
「……聞くなって言う方が無理あるし。」
「でも、ま、最初から何かあるかなって思ってたには思ってたんだけどさ。」
「…出てた?」
「何となく。泣きたいの我慢してるように見えた。」
「じゃあ、最初から我慢しなきゃ良かったかな。」
「うん。我慢してるの、わかってたけど突っ込んでいいか俺が迷ったから。でももっと早く泣かしてやれば良かった。」
「…なんか、焦る。」
「何が?」
「私が知ってる聡太ももちろんいるのに、そうじゃない聡太もたくさんいた、…から。」
「ふはっ、なんだそれ。」

 そう言いながら、またしても軽く頭を撫でられる。なんだかどんどん軽々しく触れられるようになった。

「…子どもじゃないよ、私。」
「泣き方は中学のまんまだったけどな。」
「なんで覚えてんのー!?」
「衝撃的な可愛さだったから。」
「適当なこと言わないでよ。」
「適当じゃないよ。あんな風に俺を頼ってきたのは今を抜かせばあれっきりだよ。」
「だから覚えてたって言うわけ?」
「うん。澪波はいつも俺の先を歩いてたから。そんな澪波に頼られたの、すごい嬉しかったし。」

 顔色一つ変えずにそんなことをさらっと言う。こっちはなんだか頬が熱くなっているというのに。
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