線香花火
「…ずるい。」
「え、何が?」
「好きって簡単に言えちゃうところ。」
「お前だってさっき言っただろ。聡太になら好きって言えるって。」
「違うよ!あれは線香花火に対してって意味で!」
「焦るなって。ちゃんとわかってるよ。ただ、言っておこうかと思って。」
「な、何よっ…?」

 少し構えてしまうのは、深い意味のない『好き』に対して過敏に反応してしまう自分を律したいからだ。

「別に幼馴染なんて離れちゃえばなんてことなくなる関係なのかもしれないけど、俺はこうやって、まぁ偶然だけど澪波と再会して色んなこと話して、あー明日も会いたいかもって思うくらいには好きだよ、澪波のこと。」
「っ…は、はぁ!?」

 少しは心の準備をしていたはずなのに、それでも顔が熱くなるのを感じる。それは一体どういう意味として取ればいいのか。

「昔から普通に好きだったけど、今の澪波の方が好きだな、俺は。」
「ちょっ…好き好き連呼しないでよ!」
「なんでこのくらいで怒るんだよ?別にそう思ったからそう言っただけ。」
「思っても言わないこともあるでしょ普通!」
「今の澪波には言った方が良い気がしたから。」
「……そういうのもずるいってば。」
「何が?」

 さっきも同じようなやり取りをした気がする。

「私のことを見透かして、大体合ってるし。何でもないことみたいに何でもさらって言うし。」
「あんまり気にしない性格なの、知ってるだろ?」
「知ってるけれども!だからって納得できるわけでもないし!」
「はいはい。フクザツですねー澪波ちゃんは。」
「あ、バカにした。」
「してないよ。可愛がってるだけ。」

 単純に悔しい。何なんだこの余裕は。機嫌が良さそうに鼻歌まで歌いだした。

「次の線香花火ちょうだい!」
「うん。」

 差し出された花火にそっと火をつけると、小さくくすぶり始める。オレンジ色の玉ができて動きが落ち着くと、パチパチと火花が散る。

「お、上手い!」
「超集中してるから!」
「あ、落ちたーまただ。」
「よそ見ばっかりしてるからでしょ!?」
「だって線香花火より澪波の方が面白い。泣いてたくせにもう真面目な顔してる。…と思ったら顔赤いし。」
「み、見ないでってば!集中して線香花火やりなさい!」
「はいはい。」

 線香花火、残り6本。あと3回は勝負ができるはずだ。
< 20 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop