線香花火
* * *

「なぁ。」
「なに?」
「…なんか、やけに距離置かれてる気がするんだけど。」
「なんとなく。」
「ふぅん。まぁいいけど。」

 線香花火をやり終えて、波が来ない位置に二人並んで腰を下ろした。今日は温い風が頬を撫でる。

「…ありがとう。」
「なに、突然?」
「実家に戻ってきたのは、心を整頓するためだったの。」
「うん。」
「多分一人じゃどうしていいかわからなかったと思うから、…ありがとう。」

 一人言みたいに呟いた。なんだか気恥ずかしくって横を見られない。

「うん。澪波が元気になれたんなら、それが一番だよ。」

 優しい響きに横を見ると、穏やかな笑みを浮かべた聡太がいる。

「叫べばもっとすっきりするかなぁ。」
「あ、海に?いいんじゃない?やりたいことやれば?」
「付き合ってくれる?」
「いいよ。」

 砂に足を取られながら、それでも勢いに任せて波打ち際まで走る。浅瀬に足を踏み入れると、思いの外冷たい海水が気持ち良い。

「好きだったー!!!!!」
「海のバカヤロー!」
「なにそれ。」
「定番じゃん。」
「まぁいいけど。じゃあもう一個だけ。」
「どうぞ。」

 ザザンと音を立てて、触れたと思えば離れていく波を肌で感じる。離れていく姿に彼を重ねては、そもそも触れてもいなかったことを思い出す。

「さよならー…!!!」

 止めたはずの涙がじわじわ込み上げてくる。
 聡太と再会したのはきっと、「さよなら」をするためだったのだと今なら思える。そして、決別しても自信を失わずにいられたのも聡太のおかげだ。自分が言えなかった『好き』の言葉の能力はとても高い。心の安定剤として、時には優しさとして、そして自信として傍にいてくれる。

「…傍にいてくれて、ありがとう。」
「うん。どういたしまして。…んじゃ、帰るか。」
「うん。」

 不意に繋がれた右手と左手。最後に繋いだのは、小学校の時だったかもしれない。今は自分の手をすっぽり包んで、優しく引っ張れるくらいには大人の男になってしまっている。
 涙が苦い。ゆっくり流れ落ちて口元に触れた涙の味が、じわりじわりと口内に広がっていく。泣いていることには気付いているはずの聡太は、何も言わなかった。
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