線香花火
砂浜を歩いて5分。もうすぐ海岸とはお別れだ。
「澪波。」
繋いでいた手が離れた。振り返った聡太の指が涙を掬う。その手がゆっくりと開いて、そのまま頬に触れた。
「そ、…うた…?」
そのまま触れた聡太の唇が小さな音を立てて離れた。微かに残った唇への余韻が状況を理解させてくれる。瞬きをすると涙がすーっとこぼれた。
「…泣くほど嫌だった?」
「……チャラ男。」
「なんで?」
「簡単にキスするやつになってたなんてびっくり。」
「…簡単じゃないよ。澪波相手に『簡単』なわけないだろ。」
向けられた笑顔はいつもと変わらない聡太だ。ほんのり頬と耳が赤く見えるところ以外は。
「…好きじゃないのにこういうことするんだ。」
「好きだって言ったよ。」
「そういう意味の『好き』だったの!?」
「…そうかも。」
「かもってなによ。」
「じゃあ好き。」
「じゃあってなに。」
「もー素直じゃない。可愛くない。」
「素直じゃなくて可愛くない女にキスなんてするな!」
突然立ち止まってキスした挙句、素直じゃない、可愛くないという暴言まで受けなくてはならないなんて理不尽だ。理不尽すぎて涙も止まる。
「嘘。澪波は素直だよ。素直すぎる。だからこんなにほっぺが熱い。」
「っ…さ、触んないで!」
頬に触れた手を叩く。自分はそんなに安い女じゃないはずだ。
「嫌だ、って言ったらどうする?」
払った手がもう一度ゆっくり頬に触れた。こんな目、生まれて初めて見る。
「…嫌なことはしない。それは昔から俺が澪波に対して決めてたことだよ。だから、澪波がどうしても嫌なら触んない。」
「…なに、それ…。」
そんな言い方は卑怯だ。思わず俯く。どうしても嫌なことなんて、聡太にされたことは確かに今まで一度もないし、今だって…。
「澪波…?」
ゆっくりと顔を上げる。
「…聡太がすることで私が本気で嫌なことなんて、ない、よ。今も昔も。」
聡太だから。小さい頃からずっと一緒にいた人だから。だからこそ信じられる。
「澪波。」
繋いでいた手が離れた。振り返った聡太の指が涙を掬う。その手がゆっくりと開いて、そのまま頬に触れた。
「そ、…うた…?」
そのまま触れた聡太の唇が小さな音を立てて離れた。微かに残った唇への余韻が状況を理解させてくれる。瞬きをすると涙がすーっとこぼれた。
「…泣くほど嫌だった?」
「……チャラ男。」
「なんで?」
「簡単にキスするやつになってたなんてびっくり。」
「…簡単じゃないよ。澪波相手に『簡単』なわけないだろ。」
向けられた笑顔はいつもと変わらない聡太だ。ほんのり頬と耳が赤く見えるところ以外は。
「…好きじゃないのにこういうことするんだ。」
「好きだって言ったよ。」
「そういう意味の『好き』だったの!?」
「…そうかも。」
「かもってなによ。」
「じゃあ好き。」
「じゃあってなに。」
「もー素直じゃない。可愛くない。」
「素直じゃなくて可愛くない女にキスなんてするな!」
突然立ち止まってキスした挙句、素直じゃない、可愛くないという暴言まで受けなくてはならないなんて理不尽だ。理不尽すぎて涙も止まる。
「嘘。澪波は素直だよ。素直すぎる。だからこんなにほっぺが熱い。」
「っ…さ、触んないで!」
頬に触れた手を叩く。自分はそんなに安い女じゃないはずだ。
「嫌だ、って言ったらどうする?」
払った手がもう一度ゆっくり頬に触れた。こんな目、生まれて初めて見る。
「…嫌なことはしない。それは昔から俺が澪波に対して決めてたことだよ。だから、澪波がどうしても嫌なら触んない。」
「…なに、それ…。」
そんな言い方は卑怯だ。思わず俯く。どうしても嫌なことなんて、聡太にされたことは確かに今まで一度もないし、今だって…。
「澪波…?」
ゆっくりと顔を上げる。
「…聡太がすることで私が本気で嫌なことなんて、ない、よ。今も昔も。」
聡太だから。小さい頃からずっと一緒にいた人だから。だからこそ信じられる。