線香花火
「じゃあさっきのキスも嫌じゃなかったってこと?」
「……驚いたけど。そこまで嫌では…なかった。」
「じゃあ、もう一回してもいい?」
「は、なんで!?」
「したいから。」
「…素直なやつだなぁ、ほんと。…いいよ、聡太が嫌じゃないなら。」
「じゃあお言葉に甘えて。」

 さっきよりも少し強く重なった唇。強い海の香りが鼻を刺激する。一度離れても、聡太の唇が再び澪波のを塞ぎ、触れ合いを楽しむかのように啄む。

 生まれて初めて、聡太が澪波よりも自分自身のことを優先した瞬間に思えた。思い返せば、中学の頃に失恋して、聡太の胸を借りた瞬間も聡太は澪波の心を一番優先してくれていた。抱き締め返さないでいてくれたのは、胸をただ貸していてくれたのは、聞きたいこともたくさんあったはずなのに何も言わないでいてくれたのは全て澪波のためを一番に思うからだった。どうして気付かなかったのか。

 唇が離れた。息が少し上がる中、今度は澪波の方から唇を重ねた。本当に触れるだけの、キス。

 唇を離してゆっくりと目を開けると、少し照れた顔の聡太と目が合った。

「…最後の、可愛すぎるって。」
「私ばっかり翻弄されるの、悔しくて。」
「その理由ですら可愛いんだから澪波は罪深い。」
「…何よ、それ。」
「今夜離したくないって思っちゃうってこと。」
「…キスまでは許したけど、そう簡単に体全部許すほど、私は尻軽じゃありません。」
「知ってるよ。だから今日はここまででいい。澪波の体より欲しかったもの、手に入った気がするし。」
「…あっそ。」

 今度は自分から手を繋ぐ。普通に繋いだのが不服だったのか、一度離れた手が絡み方を変えてもう一度繋がれた。
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