線香花火
「んっ…はー…可愛い。キスしてるときの澪波、頑張ってる感がすごいあって可愛い。」
「っ…わ、私は聡太と違って慣れてないもん。」
「別に俺だって経験値は人並みだから。」
「…とは思えない。」
「うわー不審な目。で、澪波は本当に何をそんなに不安がってるわけ?俺、何かしちゃった?」
「…違う。ただ、わけもなく不安なの。ごめん、理由…うまく説明、できないんだけど…。」

 こんなかっこ悪い自分を知らない。本当ならこんな自分を他人に晒すのは最もしたくないことなのに、聡太は簡単に澪波の内側に入ってくる。

「何が不安?」
「気遣わせすぎちゃって、面倒臭がられないかな、とか。」
「好きでやってるんだけどなぁ。まぁいいや。他には?」
「こっちでのお家のこと、決めちゃってたりとか。」
「え、それ?」
「ちょっとは…相談してくれてもいいのになって。」
「あーそういうことか。…言わないでおくのは確かに良くない、かな。」
「…あと、自分で何でもできちゃうとこ。私のこと、聡太は全部わかってるのに、私はわからないこと。」
「…俺もわかんないことだらけだよ。」
「え…?」

 聡太が自分の頭をくしゃっと掻きながら苦笑した。

「ちょっとびしっとかっこよく決めたいなって思って自分でやったことが結果的に澪波を不安にさせたりとかね。」
「…どういうこと?」

 何を言ってるのかさっぱりわからない。かっこよく決めたい?何のことだろう。

「午前中は家を探してたって言ったよね?」
「うん。」
「確かに会社が用意してくれるアパートが一番安いし手っ取り早いよ。でも、俺にはそれが嫌なんだ。何でかわかる?」
「…狭い、とか?」
「ふはっ。澪波らしい答え。でも違う。澪波と暮らしたいから。」
「え…。」

 予想もしていなかった角度からの答えにどんな顔をしたらいいのかわからない。ただ、心臓がドクドクいって、頬が熱くなる。

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