線香花火
「あ、でもね、聡太に由起子ちゃんが話すことってほとんどが大輝くんの話だって。大ちゃんがどうしたーこうしたーで、いつもノロケかと思うって聡太、言ってたよ?」
「っ…!」

 こういう顔ができる、すなわち顔を赤く染めて、俯いて、恥ずかしいけれど満更でもない、そんな表情をストレートに浮かべることができるのはきっと今だからだろうと澪波は思う。大人になればなるほど、表情と心が離れていく。表情に嘘が増えていく。
 〝好きが透けて見える〟とはまさにこのことを言う。

「由起子ちゃんの気持ちって女の子特有のモノかもね。ちょっと年上に憧れる時期って多かれ少なかれ誰にでもあるものよ。でも、それって結局本命じゃないの。一時的な風邪みたいなもの。熱が下がればそれでおしまい。大輝くんと由起子ちゃんの関係に風邪みたいな一過性のものってないように見える。でも、それって一緒にいることが当たり前だからだよ。」
「……。」

 一緒にいることが当たり前の大輝には、一緒にいないことがよくわからない。その辺り、澪波にはわかるのだろうか。

「澪波さんは…。」
「うん。」
「一緒にいないと、辛いんですか?」
「んー…どうだろ。聡太、結構マメだからなぁ。確かに仕事が始まれば遠距離なんだけど、それでものすごく辛い思いをしたことは多分ない。ただ…。」
「……?」
「いつでも会える距離にいられることをただ素直にいいなって思う気持ちはいつもあるよ。私と聡太は、大輝くんたちみたいに高校一緒じゃなかったしね。」
「え、違ったんですか?」
「うん。ほんとにこの前ばったり再会して、まぁ色々あってこんな感じに…。」

 これには大輝も驚いた。てっきり自分たちと同じくらい近くにいたのだと思っていた。

「あはは、意外だった?」
「…ちょっと。」
「素直だね、大輝くんは。だからオバちゃんは可愛いって思っちゃうんだよ、二人のことを。」

 丁度その時、澪波のスマートフォンが震えた。

「あ、聡太だ。もしもし?どうしたの?」
『澪波。そろそろ終わった?なんか、ゆっこの食い意地が止まんないからそろそろ大輝に返したいんだけど。』
「かっこよくて何でも話を聞いてくれて爽やかな聡太お兄ちゃんが何言ってんの?」
『ゆっこの前でかっこつけてるのは認める!とりあえず駅前にいるんだよな?駅行くから。』
「はいはい。じゃあ大輝くんと待ってるね。」
『なんかその言い方ちょっと妬ける。すぐ行く。』
「気を付けて。」

 大輝の方を見ると、なんとも言えない表情を浮かべている。

「そろそろ大輝くんにゆっこちゃんを返すってさ。そろそろ出ようか。」
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