線香花火
埋まる距離
* * *
「っ、ごめん!遅れた!」
「東京だと2分遅れはそんなに謝らないといけないことなんだ。」
「違うけど!」
「そうそう。それでいい。行こうか。」
聡太の左手が、澪波の右手をかすめる。それは意図してなのか、自然とそうなったのかはわからない。
「どこ行くの?」
「旨い居酒屋。」
「よく行くの?」
「まぁ、結構?」
「何が美味しいの?」
「エイヒレ。ってお前、さっきからゆっこみたいな質問ばっかり。」
昨日と同じようにふはっという軽い笑いが落ちてくる。由起子みたい、ということはある意味幼い、ということだろうか。
「…それ、どういう意味?」
「小さい子みたいな質問ばっかりだなって。」
「だって気になるんだもん。」
「別にダメだとは言ってないよ。むしろいいんじゃないの、等身大だろ?」
等身大と言われて初めて、背伸びをしていた自分に気が付く。東京に出てから、こんな風に思ったことをすぐに口に出すことをしてこなかったように思う。
(…無理、してたのかな。)
「澪波。」
「なに?」
「到着。」
目の前の居酒屋は、東京でよく見るそれとは違っている。東京にもあるにはあるのだろうけど、少なくとも澪波は行ったことがない。
「…古風だね。」
「チェーン店系の居酒屋ばっかりって感じ?」
「正解。」
「そういうのとは比べ物になんないくらいに旨いよ。」
「あ、今全国を敵に回した。」
「そんくらい旨いって。お前もちゃんと好きになる。」
いつもの笑いとは違う、音のない笑みが澪波に向けられた。慣れないことに胸がざわつく。
「お、聡ちゃん!今日はえらいべっぴんさん連れてるなぁー。」
「そうだろ?東京から戻ってきたべっぴんさんだ。」
「ちょっと!」
これは完全にからかっている顔だ。
「俺は生。澪波は?」
「私も生。」
「はいよっ!」
座席に案内されるわけでもなく、聡太は空いている席に座る。酒が飲めるようになってからは東京にいたせいで、この雰囲気を上手く掴めない。
「エイヒレと、枝豆と、あとは何食べたい?」
「…たこの唐揚げ。」
「おーいいね。」
失恋したことを忘れてしまいそうになるくらいに穏やかな会話が流れている。
「っ、ごめん!遅れた!」
「東京だと2分遅れはそんなに謝らないといけないことなんだ。」
「違うけど!」
「そうそう。それでいい。行こうか。」
聡太の左手が、澪波の右手をかすめる。それは意図してなのか、自然とそうなったのかはわからない。
「どこ行くの?」
「旨い居酒屋。」
「よく行くの?」
「まぁ、結構?」
「何が美味しいの?」
「エイヒレ。ってお前、さっきからゆっこみたいな質問ばっかり。」
昨日と同じようにふはっという軽い笑いが落ちてくる。由起子みたい、ということはある意味幼い、ということだろうか。
「…それ、どういう意味?」
「小さい子みたいな質問ばっかりだなって。」
「だって気になるんだもん。」
「別にダメだとは言ってないよ。むしろいいんじゃないの、等身大だろ?」
等身大と言われて初めて、背伸びをしていた自分に気が付く。東京に出てから、こんな風に思ったことをすぐに口に出すことをしてこなかったように思う。
(…無理、してたのかな。)
「澪波。」
「なに?」
「到着。」
目の前の居酒屋は、東京でよく見るそれとは違っている。東京にもあるにはあるのだろうけど、少なくとも澪波は行ったことがない。
「…古風だね。」
「チェーン店系の居酒屋ばっかりって感じ?」
「正解。」
「そういうのとは比べ物になんないくらいに旨いよ。」
「あ、今全国を敵に回した。」
「そんくらい旨いって。お前もちゃんと好きになる。」
いつもの笑いとは違う、音のない笑みが澪波に向けられた。慣れないことに胸がざわつく。
「お、聡ちゃん!今日はえらいべっぴんさん連れてるなぁー。」
「そうだろ?東京から戻ってきたべっぴんさんだ。」
「ちょっと!」
これは完全にからかっている顔だ。
「俺は生。澪波は?」
「私も生。」
「はいよっ!」
座席に案内されるわけでもなく、聡太は空いている席に座る。酒が飲めるようになってからは東京にいたせいで、この雰囲気を上手く掴めない。
「エイヒレと、枝豆と、あとは何食べたい?」
「…たこの唐揚げ。」
「おーいいね。」
失恋したことを忘れてしまいそうになるくらいに穏やかな会話が流れている。