線香花火
「生2つ!」
「おっ、早いね!ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「聡ちゃんが女の子を連れてきた記念に一杯目はサービスな?」
「おーありがとう!」

(ちょ、ちょっと待って!女の子連れてきたってところはスルー!?)

 澪波の心の声を無視して、聡太はにこにこ笑っている。

「じゃ、久々の再会に。」
「乾杯。」

 ジョッキ2つがぶつかった。泡がこぼれないようにジョッキの5分の1を飲み干す。

「いい飲みっぷりだな。結構飲むの?」
「ううん。職場の付き合いだけかな。嫌いってわけじゃないけど、特別詳しいわけでもないかな。」
「ふーん。てか、仕事は何やってるの?」
「事務仕事。」
「大手企業って聞いたけど?」
「まぁ、大手だけどやってることは地味だよ。備品の整理とか管理とか、出勤簿チェックしたりとか。」
「そっか。」

 意外といいペースで飲む聡太を前に、こんな話をするのはなんだか不思議な感覚だった。長いこと会っていなかったにも関わらず、長年親友をやっていたかのようにすんなりと馴染むこの距離が、心地よいけれど不思議でもある。

「聡太は?何やってるの?」
「林業。」
「…木、だよね?」
「そう。木植えたり伐採したりしてる。」
「それ、儲かるの?」
「まぁ、死なない程度には。」
「何やるのかイメージできないんだけど…。」
「んー…一言で説明するのは難しいけど、今やってるのはいわゆる植林ってやつかな。でも来年からは本社行くから、仕事内容変わる。」
「本社!?異動ってこと?」
「そう。」
「…なんか、私とは全然違うね。」
「何が?」

 突然痛みを思い出す。そういえば、同期の彼も来年からは昇進して、異動だった。結婚するということは、彼女は寿退社するのかもしれない。

(仕事ができるところも好きだった…んだよなぁ…)
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