よろずくんの居候
充満する塩バターの香り。
そう、このときを待っていた。
16年生きてきた人生の中で1、2を争うぐらいのウキウキだったのに。
「ふー。うまい」
「え、誰ですか」
「よろずです」
よろずと名乗った得体の知れない私と同い年ぐらいの少年は、数秒間ぼーっと私を見つめ、再び塩バターラーメンを食べ始めた。
塩バターラーメンを。
塩バター……ラーメン……?
「ちょっと!私の塩バターラーメンじゃない!」
「? ここにあったから……」
「私のだからね!」
「あ」
ずかずかと大股で歩み寄り、カップごとラーメンを奪う。
いや、もともと私のだけど。
「まったく。よろずだかなんだか知らないけどね、勝手に人ん家に上がり込んで人のご馳走食べないでよね。今すぐ出て行ってくれたら許すよ」
正直この少年はどうでもいい。
塩バターラーメンさえあれば……!
「え……?」
箸をカップの中に入れるも、あのしなやかな麺の感触がない。
考えたくもないことが起こってしまったような気がする。
「……ぎゃああああ!」
「! ど、どうした」
「何がどうしたよ!私の塩バターラーメンがなくなってる!」
「おいしかった」
「アホーッ!」
最悪だ。厄日だ。
誕生日だと言うのに。
親から連絡は来ないわ、祝ってくれる人はいないわ、ちょっぴり贅沢な夕飯はなくなるわ。
「最悪すぎる……」
「なんか、ごめん」
「ごめんで済んだらこんなに怒らないし。だいたいあんた誰なの?それ巫女服じゃない」
「えっと」
「もういい。聞く気ないし。さっさと帰ってよ」
「あの」
「ほんとなんなの。誕生日くらい、ちょっと贅沢したっていいじゃん」
「その」
「あぁ!うるっさい!出てけって言ってるじゃない!」
こんな誕生日ってある?
……もう、やだ。
弥生さんからもらったすいか食べて、もう寝よう。
そうすれば明日にはきっと忘れてる。
あれ?昨日って誕生日だったっけ?ってね。
「だから出て行って……あれ」
さっきまで座っていたはずの場所に、少年の姿はなかった。
ほんとなんだったの、あいつは。
その後、しばらく少年のいた場所を意味なく見つめ、すいかを食べて、すぐに寝た。
すいかはとてもおいしかった。
泣きたくなるくらいに、とても。