【完】純白の花に、口づけを。
「千花…、」
名前を呼ばれて、ふっと現実世界に意識がいく。
呼んだ本人は、スヤスヤと気持ちよさそうに眠ったままだ。
「ん……傍にいて……」
「っ、」
そんな、声で。
哀しくてたまらないとでも言うような、そんな切実な声で、言わないで。
「──…依千花」
すごく、ずるい。
普段は“千花”としか呼ばないくせに、こうやって寝言では私をちゃんと呼ぶ。
それが悔しくて、でも言うだけ無駄だから何も言わないけど。
……喉、かわいた。
彼を起こさないように椅子にもたれかけさせて、部屋を出る。
向かいの扉が同時に開いて、少しだけ驚いてしまった。