retaliation ~天の邪鬼な絆~
「また派手に転んだね。」

男は薬を棚から出しながら言った。

「ハードル、最後跳び損ねてしまって。」

勧められるまま椅子に座り男との会話に相槌を打った。たしか保健医は30代くらいのオバサンだったはずと直哉が不思議に思っていると男は、消毒液の染み込んだコットンを優しく傷口に当てて

「楽しい？」

と聞いてきた。この人は何を言っているのだろう？直哉は疑問に思った。授業は、楽しい物だろうか？ただ義務だからやっているだけ。学校も義務だから。(義務教育は正確には中学までだが。)最低限高校は出ているものっていうのが世間の考えなのだ。

「楽しむ物なんですか？」

直哉が聞き返すと男は声をあげて笑った。

「ふはは、参ったな。大抵の生徒は「楽しい」って話しを終わらすのにな。だよな楽しいもんじゃないな。義務でしかない授業を楽しいかと聞くのは愚問だ。すまなかった。」

涙をふきながら笑う男を直哉は見つめていた。今、彼は義務という言葉を使った。俺のあの短い文章からよく導き出せたものだ。と。

「何で義務だから楽しめないと？僕はそこまで言ってないです。ただ授業は楽しんでやるものでもないと言っただけです。」

「ああ、ごめん。同じ発言を別の人間から聞いてな。お前と気が合うかも知れんぞ。なあ、東雲！」

男は、カーテンの閉まったベッドに向かって呼び掛けた。何秒か間がありサッとカーテンが開いた。
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