花の名は、ダリア
鼻の下を伸ばしてダリアをガン見する、金持ちそうな酔っパのオヤジと肩がぶつかる。
けれど、悄気た表情で俯くダリアは気づかない。
「でも…
ほんとに平気」
「平気じゃありません。」
「でも…
今までナニも問題なかっ」
「むしろ問題しかありません。」
「ぁーぅー…」
トボトボと歩くダリアを連れて、俺は通りの端に寄った。
少し乱暴に彼女の背を煉瓦の壁に押しつけ、周囲の視線を遮断するように両腕で囲う。
するとダリアは、細い指で髪を耳にかけながら、俯いたまま視線だけを上げて俺を見た。
「…怒ってるの?」
「…怒ってますよ?」
「…怒らないでよ。」
「…怒りますよ。」
ンだよ、コレ。
まるっきり、浮気性の小悪魔カノジョとヤキモチを妬く心配性カレシの会話じゃねェかよ。
事はもっと深刻なンだよ、俺的に。
ダリアから目を逸らして溜め息を吐いた俺は、軍服の懐からブ厚い財布を取り出した。