花の名は、ダリア
「とにかく、まるっと却下します。
娼婦コスプレ案は忘れて下さい。」
半眼でダリアを睨みながら、ソージは声を落として言った。
すると、ダリアの下唇がピョコンと飛び出す。
頬が心持ち膨らむ。
でもって上目遣いとか…
萌え殺す気か、クソが。
あぁ、可愛いな。
なのに幻想的だな。
映りこんだ街灯の光が揺れるぺールブルーの瞳が、美しすぎて泣きたくなるな。
「でも…
噂の切り裂き魔サンを逆に切り裂くには、娼婦に変装するのが一番近道だと思うのよ?」
…
言ってるコトは殺伐としすぎてるな。
このイーストエンドでは、殺人事件なんて日常茶飯事だ。
明け方に娼婦が刺され、稼いだ小銭を奪われることなど、別に珍しくもなんともない。
けれどダリアが言った、巷で噂の切り裂き魔サンは…
ひと味違うのだ。
殺すのは、普通。
だが奪うのは、小銭ではなく娼婦の内臓。
それも、摘出手術であるかのように、正確に。
こう言うと、数世紀経っても謎に包まれたままの、歴史上のある事件を思い浮かべる人も多いだろう。
だが、ソレは間違い。
この物語はフィクションだから。