花の名は、ダリア

たとえ相手が女怪盗だろうが子供怪盗だろうが、気を抜くことはできない。

だって今の俺ときたら、ゴブリンにすら苦戦しちゃうたまねぎ剣士デスカラネ!?


「顔を見せろ。」


緊張感を保ったまま、ソージが短く言い放つ。

えー…なんて呟きながら、人影は鼻の下の結び目に手をやった。

ハラリと地面に落ちた風呂敷。

雲の切れ間から姿を現した月。

月明かりに浮かび上がる、芸術品の域に達した顔立ちの女を見て、ソージは刀を落とした。

肌は抜けるような白。
腰まで届く髪は象牙色。
大きな瞳は白群。

明らかにこの国の人間ではない。

いや、人であることすら疑わしい。

だってその女は、清流を隔てて存在しているような透明感と現実味のなさに覆われていた。

闇に在れば闇に溶け、光に在れば光に透け、消え去ってしまいそうな危うい儚さを身に纏っていた。


「貴方は…」


ソージの言葉遣いは、意図せず改まっていた。

彼女が、自分を迎えに来た天女のような気がしたから。

なのに…


「拙者、忍びの者ござる。にんにん。」


一見天女な忍者は、またも片言でのたまった。

しかも、語尾に変なモンまでくっついた。

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