花の名は、ダリア
Ⅲ
冷静になって考えてみると、やっぱり忍者かも知れない。
影分身なんて余裕なのかも知れない。
だってね?
昨夜は茫然としすぎててスルーしちゃったケド、屋根飛んでたよ?あの人。
よじ登る、なんてモンじゃなく、手を掛けた直後にワンステップで塀の上だったよ?あの人。
身のこなし。
身体能力。
共に普通じゃない。
それに、あの人自身も普通じゃない。
江戸が官軍に制圧されて一段落したしたとは言え、やはりまだ国は乱れている。
国が乱れると人々の心が荒むのは世の常で、辻斬りや強盗、最近では若い女ばかりを狙った誘拐まで横行していると聞く。
そんな中。
若く美しい、しかも異人が。
一人キリで。
あんな夜更けに。
こっそり水を貰いに来る。
うん。
どー考えても普通じゃない。
何者なんだろう?
何をしていたンだろう?
お迎えの天女ではないと言うのなら。
ただの人間だと言うのなら。
いったい、あの美しい女は…
と、ずっとそんなコトばかり考えていたせいで、ソージは一日中上の空。
昼過ぎに食事を持って来てくれたバーサンが、
『とうとう頭にキタか…』
なんて首を振りながら帰ったが、それすらも上の空。