花の名は、ダリア
溢れ出す涙を、クララはドレスの袖で乱暴に拭った。
泣くのは後でいい。
あの女を殺した後でいい。
絶対に、絶対に、許さない。
「『絶対に許さない』とか、思ってンだろ。」
怒りを滾らせるクララの耳に、抑揚のない声が届いた。
「っ!?」
急ブレーキをかけて疾走をやめたクララが、周囲に視線を走らせる。
前、そして後ろ。
細い路地だから、横はまずない。
懸命に目を凝らしても、深い闇が広がるだけ。
けれど、確実にいる。
あのバケモノが。
いったいドコに…
「ココだよ。
上、上。」
上?
クララは弾かれたように顔を上げ、建物に四角く切り取られた夜空を仰いだ。
…いた。
川沿いに出るのは得策ではないと考え、ついさっき曲がった大型ドックの屋根の上。
今夜に限って姿を現した美しい満月を背に、浮かび上がるシルエット。
…
って、嘘ぉぉぉぉぉん!?