花の名は、ダリア
クララは知っていた。
前に、まだ人間だったフランシスと来たことがあったから。
そこは小さな礼拝堂。
ロンドン中央部にあるような、立派なステンドグラスや荘厳なマリア像が設置された大聖堂には程遠いが、それでも神のおわす処。
クララは息をつく間もなく身を起こし、自らが割った窓から夜空を見上げた。
あのバケモノは動いていない。
ドックの屋根に突っ立ったまま、動いていない。
何度か聞いたバカバカしい自己紹介は、嘘ではなかったようだ。
あの男はヴァンパイア。
だから、夜しか出歩かない。
だから、銃では死なない。
だから、屋根も跳べる。
そして、だからこそ、教会へは入れない。
これで今夜を生き抜いた。
ヴァンパイアは日の光に弱いというから、この安全地帯で朝を待てばいい。
それから、復讐の策を練ればいい。
ヴァンパイアは強く恐ろしい反面、弱点も多いバケモノだと聞くから、きっといい案が浮かぶだろう。
危険な賭けは私の勝ちね。
ココは殺人鬼には似合わない場所だけど…
(アンタには、もっと似合わない場所よ。)
遠く佇むシルエットに、クララは勝ち誇った笑みを向けた。
まぁ、見えてないだろうケド。