花の名は、ダリア

銃弾は真っ直ぐに飛んだ。

そして、クララの眉間を真っ直ぐに貫いた。

笑った顔のまま仰け反り、糸が切れたマリオネットのようにパタンと倒れる身体。

きっと彼女は、自らの死を自覚することなくフランシスの元へ旅立っただろう。

アッシジの聖フランシスコの説教に感銘を受け、裕福な暮らしを捨てて生涯を神に捧げたという聖乙女クララ。

ほんの少し道が違えば、同じ名を授かった彼女も、喜びと祈りを口ずさみながら生きたのだろうか。

気高く清らかな、優しい女でいられたのだろうか。



ムリか。

愛ゆえに狂い。
愛ゆえに多くの人を殺め。
愛ゆえに身を滅ぼした。

彼女はソージと同様、立派な愛のクソなのだ。

聖人でいられるはずがない。

同類に手を下したソージは、いったい何を思うのだろう。

彼女の末路に、自らの末路を重ねるのだろうか…


(…知ったこっちゃねェわ。)


月明かりを浴びて横たわる『イーストエンドの切り裂き魔』に、ソージはなんの感慨もなく背を向けた。

すべきことは全て終わった。

早く帰ろう。
ダリアの元へ。

なーんも思わねェよ?

だからこそ、愛のクソ。

< 181 / 501 >

この作品をシェア

pagetop