花の名は、ダリア
Ⅰ
虎穴に入らずんば虎児を得ず
正にソレだと思うケド、言うほど簡単なモンじゃない。
逃げなくちゃ。
でも、逃げてばかりじゃダメだ。
矛盾する二つの感情の波に揉みくちゃにされながら、少年は暗い森の中を必死で駆けていた。
地の利は確実に彼にあるし、深夜という時間帯も味方して、追っ手の数はずいぶん減った。
けれどまだ、荒々しい声が聞こえる。
時折、足元がライトに照らされる。
それに、敵は少年の内にもいる。
疲労、そして空腹だ。
息が乱れる。
顎が上がる。
足が縺れる。
縺れたついでに、飛び出た木の根に躓いてしまった。
湿った地面に盛大にダイブし、辺りにベチャっという音が響く。
捕まるわけにはいかないのに。
今は逃げなきゃいけないのに。
どーしてだろね?
こーゆー時のこーゆー音は、異様に辺りに鳴り響く。
見つかっちゃったカナ?
擦りむいてしまった膝の痛みを堪えて四つん這いになり、恐る恐る振り返れば…
そこには軍服を着た二人の男。
見つかっちゃったネ。
てか、意外と近くにいたのネ。
…
終わった。
望みは断たれた。