花の名は、ダリア
あどけなく微笑んで、女王サマが言う。
「だから、早く帰ったほうがイイわ。
サドキチの餌食になる前に。」
柔らかく、だがどこか黒く微笑んで、サドキチが言う。
「そーだ、帰れクソガキ。
ダリア見ンな、クソガキ。」
二人を交互に見た少年は、自らの汚れた両手に視線を落とし…
「…帰る場所なんてねーよ。」
ポツリと呟いてから、唇を歪めて笑った。
中東アラブ系の顔立ちに、黒い短髪と黒い瞳。
この時代のこの地方で迫害される側の明らかな特徴を、彼は持っている。
当たり前に家族が待つ、当たり前の暖かい家を、彼は失っているのだろう。
けれど、迫害から逃れた、元々は縁もゆかりもない者同士が身を寄せ合い、潜伏を続けているとも聞く。
彼にはそんな場所もないのだろうか。
どう見ても、まだ大人の保護下にあるべき少年なのに。
「おい、クソガキ。
おまえ、一人なのか?」
冷ややかに少年を見下ろして、ソージは訊ねた。
うん。
冷ややかっちゃー、冷ややかなンだケド。
基本ダリアのことしか頭にないこの男が、赤の他人に興味を抱いてナニカを訊ねるなんて…