花の名は、ダリア
穴の中なんて、袋小路だろ。
発見されたら即アウトだろ。
そう思ったアナタ。
ソレがそうでもないみたい。
焚火の揺れ方や音の反響具合から察するに、この洞窟は奥へ行くほど枝分かれしていて、外へ出られるルートが幾つかあるようだ。
つまり、道順を把握していれば逃げられる。
それだけでなく、洞窟内で迷った敵を囲い込んで倒すこともできる。
さすがは元レジスタンスの隠れ家デスネ。
ソーデスネ。
だが、毛布や衣類などはあるが、食料はない。
銃は数丁残っていたが、どれも残弾0。
見捨てられた要塞と言ったところか。
それでも自分のテリトリーに戻って安心したのか、ヨシュアはソージたちが持ち込んだパンやソーセージを貪りながら、自らの敵のことを雄弁に語った。
トーデスエンゲル。
直訳すると『死の天使』。
そんな異名を持つその医師は、ナチス新衛隊大尉であり、アウシュビッツ強制収容所の主任医官。
麻酔ナシの内蔵摘出手術。
病原菌や有害物質の直接注入。
果ては、生きたままの解剖。
それらのおぞましい人体実験をアリアを口ずさみながら行う、マッドサイエンティストだ。
こう言うと、狂気に取り憑かれた歴史上の鬼畜医師を思い浮かべる人も多いだろう。
だが、ソレは間違い。
この物語はフィクションだから。