花の名は、ダリア
トーデスエンゲルは以前から幼い双子にご執心で、『二人を一人にしてみよう!』的な、口にするのも憚られる残虐極まりない実験を繰り返していたが、最近趣向が変わったらしい。
『双子を使って、忠実で死なない兵士を作ってみよう!』
コレが、彼のマイブーム。
イカレるにも程だろ、おい。
そんな折、運の悪いことにヨシュアとデボラは取っ捕まり、運の悪いことにトーデスエンゲルのいるアウシュビッツに収容されてしまった。
イカレ医師は大喜び。
二人は染色体の欠損から発生する、世界でも数例しか確認されていない男女の一卵性双生児だったから。
丁重に扱われ、優しく手を引かれ、彼ら二人はトーデスエンゲルの狂気が渦巻く手術室に誘われた。
今までの双子たちは、ガス室送りにならなかった幸運に安堵して、何も知らずに身体を切り刻まれて死んでいったのだろう。
けれど、ヨシュアとデボラは違った。
『暴れだすと手がつけられないから、麻酔は多めに』
『兵士にするのは男』
『女は干からびたらすぐに心臓を撃て』
という、医師たちが交わす断片的な会話を聞いてしまったのだ。
どんな手術を施されるのかはわからない。
だが、女であるデボラに死が待ち受けていることだけはよくわかった。
医師と兵士数名が席を外した隙を見計らい、ヨシュアは青ざめるデボラの手を引いて逃げ出した。