花の名は、ダリア

フラフラになりながらも森に辿り着いたヨシュアは、声を殺して泣いた。

蹲り、地面を何度も殴りつけ、血が滲んだ拳を噛みしめて泣いた。

そして誓った。

デボラだけは取り戻すと。

この世界は残酷で。

彼の両親を、彼の友達を、彼の大事な全てを奪っていった。

もうたくさんだ。

デボラだけは奪い返す。
デボラだけは守ってみせる。

涙を振り払って立ち上がったヨシュアは、強い決意を胸に秘めて森の奥に足を踏み入れた。

それから、潜伏していたレジスタンスに拾われて。

色々なことを学んで。

ヨシュア同様、アウシュビッツを脱走してきた人たちの手助けをして。

少しは強くなれた気がした。
デボラに近づいた気がした。

けれどアウシュビッツに潜入しようとする度、ヨシュアは己の無力さに打ちのめされた。

虎穴に入らずんば虎児を得ず

ほんと、言うだけなら簡単だよ。

経験が足りない。
武器が足りない。

なのに敵は多勢で強大。

ワルシャワでの勝利を足掛かりに、この国と捕らえられた人々を解放すると言って旅立った仲間も、今はもういない。

無力なまま、また一人きり。

それでも。

それでも、デボラだけは…

< 229 / 501 >

この作品をシェア

pagetop