花の名は、ダリア
フラフラになりながらも森に辿り着いたヨシュアは、声を殺して泣いた。
蹲り、地面を何度も殴りつけ、血が滲んだ拳を噛みしめて泣いた。
そして誓った。
デボラだけは取り戻すと。
この世界は残酷で。
彼の両親を、彼の友達を、彼の大事な全てを奪っていった。
もうたくさんだ。
デボラだけは奪い返す。
デボラだけは守ってみせる。
涙を振り払って立ち上がったヨシュアは、強い決意を胸に秘めて森の奥に足を踏み入れた。
それから、潜伏していたレジスタンスに拾われて。
色々なことを学んで。
ヨシュア同様、アウシュビッツを脱走してきた人たちの手助けをして。
少しは強くなれた気がした。
デボラに近づいた気がした。
けれどアウシュビッツに潜入しようとする度、ヨシュアは己の無力さに打ちのめされた。
虎穴に入らずんば虎児を得ず
ほんと、言うだけなら簡単だよ。
経験が足りない。
武器が足りない。
なのに敵は多勢で強大。
ワルシャワでの勝利を足掛かりに、この国と捕らえられた人々を解放すると言って旅立った仲間も、今はもういない。
無力なまま、また一人きり。
それでも。
それでも、デボラだけは…