花の名は、ダリア
「人間に絶望してはダメ。」
不意に、心と同様冷えきってしまったヨシュアの身体が、ダリアの華奢な腕に包まれた。
「確かに人間は、お互いの正義を掲げてお互いを傷つけ合ったりもするわ。
それどころか、理不尽な理由で一方的に攻撃することだってあるわ。
でも、本当にそんな人間たちばかりかしら?」
穏やかな彼女の声が鍵となり、記憶の扉が開いていく。
嘆きと怨嗟に埋もれていた、大切な記憶が戻ってくる。
「思い出して。
アナタはずっと、奪われてばかりだった?
知り合いでもないアナタに何かを与えてくれた人間は、誰一人としていなかったの?」
ヨシュアは静かに瞼を閉じた。
残り少ない備蓄食料を分けてくれた人がいた。
露見すれば自らも罰せられると知りながら、匿ってくれた人がいた。
今は亡き仲間たちだって、そう。
見も知らない大勢の人たちを解放するために、命を投げ出したのだから。
ヨシュアは静かに瞼を上げた。
ダリアのペールブロンドから透けて見える夕焼け空は、いつにも増してキラキラと輝いている。
この世界は残酷で。
けれど、それ以上に美しくて。
泣きたくなるほど美しくて…