花の名は、ダリア

躊躇いながらも頷いたヨシュアの頭を軽く撫でてから、ダリアは兵士たちを振り返る。


「誰か先に行って、見つけたわよって知らせてきてくれる?
デ… もう一人の双子ちゃんとすぐに会えるように、手配しておいてね。」


一片の迷いもない、凛とした物言いだ。

疑念を抱きつつも、兵士の一人が駆けていく。

もう引き返せない。

ヨシュアは拳を固く握りしめ、森の奥に視線を向けた。

いつも人を小馬鹿にする、イヤなヤロー。
なのにどこか頼りになる、変なヤロー。

何も知らずに洞窟で眠る、クソヤロー。

せめて、あの男がいてくれれば…


「大丈夫よ。
もうすぐ日が暮れるから。」


小さいが、確信に満ちた声がかけられる。
固めた拳にぬくもりを感じる。

ヨシュアはダリアの無垢な微笑みを見上げて。
重ねられた、彼女と自らの手を見下ろして…

それから、しっかりと前を見据えた。

その眼差しの先には、彼らを誘導しようとする兵士たち。

さらにその向こうには、デボラが待つアウシュビッツ。

信じよう。
ダリアと、あのクソヤローを。

そして自分を。

傾く太陽が赤く照らす地獄への道を、ヨシュアは己の意思で踏み出した。

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